映画の日記 『ノルウェイの森』

タイトル: ノルウェイの森
監  督: トラン・アン・ユン
主  演: 松山ケンイチ 菊池凛子 水原希子
短い感想: 「優」
内  容: [村上春樹の世界]


 さて,映画「ノルウェイの森」ですが,私はかなり良いと感じました。
 ストーリーは原作に忠実ではないものの,徹底的に原作を腹で消化した上での監督版ノルウェイの森になっています。これは,ノルウェイの森という作品上 どの道そうならざる得ないならこの作品はかなりの良作です。監督すさまじいと感じます。
 
 まず,映画で驚くのは,久しぶりのシネマスコープ(横幅が縦幅の2倍以上)です。
 シネスコは風景重視の映画で使われることがあるのですが,心理描写としてのシネスコは珍しいと感じます。「喪失感」を表現するのに,黄金分割から遠いシネスコを使って非常に不安定な画面を連続で繰り出しています。それが,なんというのか「不安定」が見事にはまるというのでしょうか。監督というより,これはカメラマン(撮影)の力を感じざるを得ません。見事です。ゾクゾク来る画面の連発で体感温度下がりまくりでした。
 映画の雰囲気も,日本映画ではなく,ましてハリウッドではなく,フランス映画6:香港映画4といった感じでしょうか。
 配役も見事,特に女優陣。その存在感・心理表現・美しさと狂い見事です。
 
 音楽は,映画で雰囲気をつかさどると思っているのですが,この映画は,音楽という音楽はきわめて少ない。そういう演出。風・波・声「音」を,幽かに流す。音楽の人は苦しかったのではないかな。逆に音響は腕の見せ所。

 個人的には評価は「優」なのですが,単に映画を話題性で見に来た人にとって,狂った映画じゃないのか。ここまで緻密で美しい映像で「喪失感」をがんがん表現してしまうという意味で。寒くて怖いホラーのように感じてしまうのではないだろうか。

 ぜひ映画館で見てほしい。テレビ放送でシネスコの両脇をカットされたりしたら,それは別の映画です。この映画は,ストーリーというより心理描写映画ですから。
 DVDやBDでもシネスコを表現されるとTVという形態上別の演出が加わってしまうはずです。もし見るなら,本当に部屋を暗くしてください。
 まだ,やってます。疲れた仕事帰りでもいくべし。ただし,後味は保障しません。
 忘れたくても心の奥底に潜まれてしまうような映画になるはずです。
 

大人 □□□□□|□−−−− 子ども
男性 −−□□□|□□□□□ 女性
私事 □□□□□|□−−−− 公事
空想 −□□□□|□□□□− 現実
美的 □□□□□|□□□□□ 醜的
善的 −−−□□|□□□□□ 悪的

2010公開作品